俳句募集事業HAIKU PROGRAMS
鬼貫青春俳句大賞 結果発表
第19回鬼貫青春俳句大賞 発表
若手俳人の発掘・登竜門として柿衞文庫の開館20周年を記念し、平成16年に設けられた「鬼貫青春俳句大賞」。第19回目をむかえる今年は1993年生まれから2007年生まれの方を対象に作品を募集し、このたび各賞が決定いたしました。
第19回目となる今年は国内外から21作品のご応募があり、「ホトトギス」主宰の稲畑廣太郎氏、俳人の塩見恵介氏、詩人の山本純子氏、伊丹青年会議所理事長の藤原正人氏、柿衞文庫常務理事の岡田 麗〔順不同〕ら5人の選考委員が選考にあたりました。そして、今年の優秀賞には葉村直さん、磐田小さん、10代の方を対象にした敢闘賞には蒋草馬さんの作品が選ばれました。受賞者と作品は次のとおりです。
大賞
該当者なし
優秀賞
『立夏、手を』 大阪府 葉村直
夕立の最初の一滴をつかむ
団扇うるさい進路相談室は暗い
溺死してしまふ教師の香水に
翅のない蝉だ美大は駄目なんて
蟻捷しステンレスパレットのふちを
かきごほり夢といふ呪縛について
流星や背後の塾は消灯す
白絵具ばかり余つてゐた八月
稲妻は夜を膨らませる血管
停電のアトリエに林檎は赤か
樫鳥も私もまちがへて飛んだ
色のない月を愛してくれますか
紅葉かつ散る旧校舎かつ未来
霜を踏まぬやうに跨いだ先に霜
星がきれい見上げなくてもわかる冬
凩の岐路として私の背中
土赤し雪掻けば傷口のごと
一切は声となりけり年の市
左義長や画集を抱いて立ち尽くす
どれを信じても光るよ風だから
わするなぐさ透明な拒絶がほしい
夕永き廊下は今をつなぐ橋
桜がとても怖くてそれを描きたくて
ゴミ箱の絵筆を拾ふ朧かな
花冷は家出が旅となる時間
振り向けば止む春の雨でも走る
カンヴァスと仔猫は傘が護る白
過去は水だらう温みはしないけど
生家から播種の便りや絵売れき
立夏、手を握るとは握られること
優秀賞
『音とりどり』 愛知県 磐田小
チューバぷっくり五月の風を生んでいる
薫風をギターの底に閉じ込める
パイナップルに日光の噴射口
道化師の仮面に余熱夏の星
手花火や光は光より生まれ
六月の本棚ごとの香りかな
白玉をつつく言えないことがある
白シャツを干す失恋の旗として
つめたきはだしをはだしであたためる
分身の海月どうしが出逢わない
草田男忌板書残したままの夕
秋晴やトランペットの水を抜く
ひぐらしや形見は芝浜のテープ
八月のナイフを筆のように置く
秋の雲名だけ頭にある戦
彫像のひとりの夜を桐一葉
宇宙とは円いほら穴鉦叩
満月やコントラバスの弦を張る
十六夜に血清ほろほろと透けり
コスモスや路上ピアノを弾く社員
浮世絵の目線いろいろ柿紅葉
ペリカンの檻の歪みや秋の虹
凩はきっとフルートになりたい
裸木になれば眩くない世界
冬の月ふたつ足りないしょうゆ皿
横笛は縦笛といてクリスマス
血管の地図をたどっていれば雪
氷流れて音の伝わりゆくかたち
梟に目玉の嵌りある無音
冬の蜂音とりどりに輝くよ
敢闘賞
『さよならのたび』 東京都 蒋草馬
要するに旅がはじまる深雪晴
静脈が指から伸びて凍滝へ
世界から消えて霜夜を歩こうか
突如犬が造り物めく涅槃雪
砂漠からひとは生まれた春の星
三月はミルクレープを十重二十重
カーテンに潜る白さよ卒業す
とぶ蝶はときどき暗い団地に風
春陽がいつも反射している街だ
江戸川を真近く蜂がよろめいた
一歩いっぽとなつかしく素足の庭
ソーダ水のむとき肘の見えそうな
夏の月重くいとでんわの震え
人魚うたうように杏が揺れ出した
昼も夜もピアノが捨ててある夏野
灼けて無という無がふくらんだ都心
河鵜とぶ穴あるものはみな機械
曼珠沙華ガスバーナーの燃える音
喉にとうがらしの記憶坂は海へ
おそらくはメンマの味の月の夜
鹿鳴いて天動説が覆る
おおかたの数は割れると草紅葉
末枯れてもうすぐ掴めそうな空
図書館に子規の書匂う時雨かな
空気砲ドカンと言えば鶴が飛ぶ
寿司の背を醤油這いゆく除夜である
十二支に猫いないこと初明り
日記買う横文字がきらいな君に
心臓が時計のようだ夜着を抜け
さよならのたび僕は死ぬ結氷湖