市立伊丹ミュージアム

HAIKU PROGRAMS

鬼貫青春俳句大賞 結果発表

第20回鬼貫青春俳句大賞 発表

若手俳人の発掘・登竜門として柿衞文庫の開館20周年を記念し、平成16年に設けられた「鬼貫青春俳句大賞」。第20回目をむかえる今年は1994年生まれから2008年生まれの方を対象に作品を募集し、このたび各賞が決定いたしました。

第20回目となる今年は全国から13作品のご応募があり、「ホトトギス」主宰の稲畑廣太郎氏、俳人の塩見恵介氏、詩人の山本純子氏、伊丹青年会議所専務理事藤岡寛大氏、柿衞文庫常務理事の岡田 麗〔順不同〕ら5人の選考委員が選考にあたりました。そして、今年の大賞には野名紅里さん、優秀賞には板垣華蓮さん、市川桜子さん、10代の方を対象にした敢闘賞には述村鶏頭子さんの作品が選ばれました。受賞者と作品は次のとおりです。

大賞

『エンドロール』   山口県  野名紅里

蝙蝠の羽正直に開きけり
なんとなく読める漢詩や日日草
その薔薇と薔薇が同姓同名で
ヒーローがエンドロールでくぐる虹
ビールの泡失せて窪んでゐるところ
その鳥を追ひ紫陽花に囲まれる
かなぶんが語彙から逃げてゆく夜中
先に起きて麦茶がぬるくなつてゐる
石鹸は手に収まつて稲の花
柿の種柿からはづす力かな
満月が偽薬に似る夜なら眠れ
鳥渡る一人称の小説に
煙草屋に買ふ新聞や花カンナ
椿の実辛抱強き色をして
青年に消えるそばかす文化の日
新豆腐切るに呼吸を止めてゐる
初雪や名の無きときを眠る犬
大海に鯨の呼吸明るくて
川底の色の魚や冬の雷
茹ですぎたパスタ十二月のある日
真白なる傷閉じ込めて氷柱かな
マフラーを巻き寂しさを戒める
北風や遠くを見るに浮く踵
ドロップの丸よ四角よ鶯よ
本棚のまづ入る部屋春めいて
冴返る体育館に線多し
風船にとつての針のやうなもの
短髪の女芸人桜まじ
傷癒えるはやさで春の雲動く
カステラを三等分に蝶の昼

優秀賞

『いつもにぎやか』   京都府  板垣華蓮

初便り全て書こうとすぼむ文字
如月菜持つ手洗う手やわらかく
まず闘志抱き土筆は生えにけり
あたたかや寝息に合わせ動く腹
かじめ干す地球とともに生きること
空が好き思いのままに辛夷咲く
立夏とは待つこと苦にはならぬこと
おはようが駆け抜けていく風五月
ヒーローになんてなれない若葉踏む
そら豆のひとつひとつに知った顔
階段を一つ飛ばしで五月晴れ
風だけが訪れる家花蜜柑
思い出を切り取るように冷奴
ヒトになりたくて裸足になった夜
空蝉にあるかもしれぬ未練とか
もう教えてももらえぬ星月夜
えのころの弾む空気や子らの声
さつまいもの思い出いつもにぎやか
秋晴れて今日を退職の日とする
集めても手のひらほどの秋思かな
天高しなんでもなれるぼくはぼく
言わぬもの数ある一つ林檎の値
紅葉散る今さら純情だなんて
待つというスパイス加え煮る南瓜
足袋裏の戻らぬ白さ文化の日
賞状のように大根受け取って
なにもかも嘘だとしても冬茜
さ行の音だけ残して雪積もる
息白しほんとのことの証かと
また一人しんとなる居間春隣

優秀賞

『るんたった』   東京都  市川桜子

月曜日国語算数理科捕鯨
凍星の密漁船で逃避行
ピノッキオマフラー干すからついてきて
くしゃみしてポラリス逃す銀河売り  
いもうとにテディ取られて山眠る
満開の六花踏みしめピルエット
春待つは蘇生中のヒポグリフ
たんぽぽでG環真似る金星や
君だけは変わっていてて三月うさぎ
モ・モ・ノ・ハ・ナ私も上手に怒れない
月が見ているけどブランコは貸さない
こおんくらいすきだもんと言うチューリップ   
さくらかわいくさくらこNOEかわいく
見つけるまで帰ってきちゃだめ蚕の羽
煙草よりシャボン玉がずっとお似合い
春の夢ホルマリンで酸化する
白薔薇も鯨幕も赤く塗ろう
沸点低いのね紫陽花で蓋する
金魚屋のジュークボックスインド製
クーラーの奥を進めば鍾乳洞
ヒーローへ連れ戻してよ夏休み
淡水さえ息苦しい山女かな
トルソーと踊ろう夏果て近くとも
来世はパンダになりたい毒キノコ
ライオンの曲芸大学秋開校
火星に放て!給食のかぼちゃ煮
捨案山子ありおりはべりいまそかり
無花果剥くやさしい嘘がかゆかった
コットンの秋風羽織る君はとても
大脳に檸檬を置いてるんたった

敢闘賞

『ひとしきり』  千葉県  述村鶏頭子

恋猫の連れ来る雲の赤さかな
春疾風よく曲がりたる寺の道
緋鯉見に遅日の池にをりにけり
水温む靴脱ぐ足のあでやかさ
遠浅に石のころがる涅槃の日
逃水を缶の転がり来る音か
桜蕊降る談笑のかたはらに
跳箱の白にごりゆく立夏かな
きのふより鈴蘭の花減つてをる
雨粒をいくつか抱へ巣立ちけり
打水のたび向かい家の犬が鳴く
浴衣から覗ける肘の絆創膏
かたつむり弔辞の飽きてくる頃に
葵咲く探偵事務所あるビルに
日盛を走るチラシの色鮮やか
ひとしきり騒いで休暇明の昼
秋めくや駅のベンチに缶ひとつ
虫籠にシールを張つてゐる子供
川の音の聞こゆる墓へ参りけり
ランタンの灯さぬ軽さ小鳥来る
博打うつ檸檬絞つてすぐの手で
干柿をとほく見てゐて笑点終ふ
冬近し工場の音のよく届く
花八手換気の窓のすぐ下に
凩や狛犬の爪欠けてをり
いつまでも冬田を離れざる鷺か
山眠る半紙にゆるやかな折れ目
靴下を炬燵の中に忘れ来し
少年の冷たき耳や冬至粥
白鳥の飛び立つ羽の重さかな

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