市立伊丹ミュージアム

ITAMI INTERNATIONAL CRAFT EXHIBITION

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2024伊丹国際クラフト展「酒器・酒盃台」2024 ITAMI International Craft Exhibition

2024年11月16日(土)~12月22日(日)Sat. November 16 – Sun. December 22, 2024

今回で25回目を迎える伊丹国際クラフト展。今年のテーマは「酒器・酒盃台」です。海外11ヶ国75作品を含む計261件、総数1,184点の応募があり、厳正な審査の結果98作品が入選、そのうち8作品が入賞となりました。伊丹は江戸時代に酒造りで繁栄し、文人墨客が集う文化の薫り高いまちとして発展してまいりました。その系譜を現代に引き継ぐ市立伊丹ミュージアムにとって、本テーマはまさに意義深いものです。

豊かな自然の恵みと日本人の知恵の結晶とも言える日本酒(Sake)について深く掘り下げ、柔軟で自由な発想に培われた優れた創造力と高い技術力で制作された作品の数々が集まりました。その中でも入選入賞作品は創意工夫に溢れており、人々が楽しく集い日本酒を愉しむ姿が目に浮かぶような、日本酒の嗜みにおける新しい可能性を指し示すものでした。

世界各国の作家の皆様が「日本酒の文化」と向き合い表現した、多様な「酒器・酒盃台」をぜひご覧ください。

展覧会情報
会期  2024年11月16日(土)~12月22日(日) 10:00~18:00
(入館は17:30まで)
休館日 月曜休館(祝日の場合翌日) 入場無料
会場 市立伊丹ミュージアム 展示室6
表彰式 2024年11月16日(土) 13:00~
会場:市立伊丹ミュージアム 旧岡田家住宅・酒蔵
主催 市立伊丹ミュージアム[伊丹ミュージアム運営共同事業体/伊丹市]
協賛  小西酒造株式会社、伊丹老松酒造株式会社、株式会社光陽社、佐竹ガラス株式会社、伊丹酒造組合
後援 近畿経済産業局、兵庫県、一般社団法人総合デザイナー協会(DAS)、株式会社ベイ・コミュニケーションズ、伊丹まち未来株式会社
審査員

小清水漸(彫刻家京都市立芸術大学 名誉教授) 審査員長
小西新右衛門(小西酒造株式会社 代表取締役社長)
趙丹綺(金工作家国立台湾芸術大学 教授)
外舘和子(工芸評論家工芸史家多摩美術大学 教授)
松井利夫(陶芸家滋賀県立陶芸の森 館長)
山野宏(ガラス作家大阪芸術大学 工芸学科 学科長)
四代田辺竹雲斎(竹工芸家アーティスト)

大賞 / Grand Prix

ハナコ酒器セット
芥川 宏 / AKUTAGAWA Hiroshi (JAPAN)

準大賞(白雪・伊丹諸白賞) / 2nd Best Overall Award(Shirayuki Itami Morohaku Award)

ゆらぐ
鹿田 洋介 / SHIKADA Yosuke(JAPAN)

伊丹賞 / Itami Award

最初の季節
白鳥 好貴 / SHIRATORI Koki (JAPAN)

優秀賞 (白雪賞)/ Gold Award(Shirayuki Award)

マッ酒ルーム
竹田 亜希子 / TAKEDA Akiko(JAPAN)

奨励賞 (老松賞) / Award for Promising Talent(Oimatsu Award)

The Charcoal
黃 子芳 / HUANG Tzu-Fang(TAIWAN)

奨励賞 (光陽社賞) / Award for Promising Talent(Koyosha Award)

合/Combine
羅 琪 / LO Chi (TAIWAN)

グッドマテリアル賞(佐竹ガラス賞) / Best Material Award (Satake Glass Award)

酒器セット
曲げわっぱ工房 E08 仲澤 恵梨 / magewappakoubou E08 NAKAZAWA Eri (JAPAN)

審査員賞(伊丹酒造組合賞) / Judge’s Choice (Itami Shuzo Association Award)

タネカラ
今田 拓志 / IMADA Takushi (JAPAN)

-審査講評-

小清水 漸 / KOSHIMIZU Susumu (審査員長/彫刻家/京都市立芸術大学 名誉教授)

今年は「満足した」か?
前回の「酒器・酒盃台」の審査に際して、「不満足」と述べた。
さて今回は?
「概ね満足」としておこうか。
審査は愉しく進んだ。今年も分野の異なる専門家が、それぞれの経験と眼を働かせて、時に異なる意見を述べ合いながら、殴り合うことも無く、ふんだんに時間を使って、審査を終えた。受賞作品を見れば判ることだが、多様な素材の選択、技術の妥当性と確かさ、使う人への思い遣り等々、充分に配慮された作品に満ちていた。個々の作品についての意見を述べるには紙幅が足りない。今日は大賞と準大賞について述べる。
「大賞」ハナコ酒器セット。意表を突く、ヒトを喰ったような作品である。しかし技術の確かさは疑う余地が無い。この酒器が供される席の雰囲気は、想像するだに愉快である。個人的には、トムウェッセルマンのグレートアメリカンヌードのような、おおらかでカラッとした味わいが欲しいなと、欲張って思った次第である。でも、ハナコさんには逢ってみたいものだ。
「準大賞」ゆらぐ。ガラスの透明感を生かした、心地よい作品である。技術の確かさは、手にしてみて良く判る。台の見掛けは薄く軽そうに見えるが、ガラスの質を良く生かし、充分な安定的重量を持たせてある。杯はさりげなく軽く造っていながら、底辺を緩く削ってあり、台のアンジュレーションに乗せると、まさに心地よくゆらいでくれる。この「ゆらぎ」は、酔いしれるに充分だと思う。

小西 新右衛門 / KONISHI Shinuemon (小西酒造株式会社 代表取締役社長)

「酒器・酒盃台」の審査に第一回より携わっておりますが、今回は特に蔵元として新たな思いで審査に臨みました。伊丹市は4年前に文化庁より『「伊丹諸白」と「灘の生一本」 下り酒が生んだ銘醸地、伊丹と灘五郷』が「日本遺産」に認定され、次のチャレンジとしてWTO協定が定める知的財産権の一つであり、産地名を独占的に名乗ることが出来る地理的表示(GI)「伊丹」の指定に向けて進める中での審査でありました。美味しいお酒を醸すだけでなく、そのお酒を楽しく飲んでいただく設えには酒器・酒盃台は大切なツールであると考えています。今回も世界各国から多くの応募があり、大変ワクワクする審査でありました。アイデアと技術が伴った作品も多くあり、審査にも力が入りました。大賞に選ばれた作品は、日本独特の世界観である雪月花を愛でるのと同じくお酒の世界では重要なエロスを独特に表現した作品であると感じました。他の受賞作と共にこれらの酒器・酒盃台が日本酒をお洒落に飲む演出につながればもっと楽しい場面・シーンが生まれると確信いたします。

外舘 和子 / TODATE Kazuko  (工芸評論家/多摩美術大学 教授)

この展覧会は「酒器・酒盃台」という具体的なテーマがあるにも関わらず、実に多様な作品が集まり、宴の場の持つ広がりや可能性を改めて感じた。中には、大いに遊びのある作品もあり、この展覧会は今後益々拡張していくように思われる。大賞受賞作は、女性の身体や唇などのモチーフを大胆に扱っているが、完成度も高く、どこかユーモラスでもあり、従来の作品にないインパクトがあった。準大賞受賞作はガラス素材の滑らかでソフトな面の美しさを生かした優品である。伊丹賞受賞作は、高度な造形力で磁器をしなやかに扱う曲線美が魅せる。優秀賞の木工作品は、アイデアと造形力、手触りや愛らしさ、洒落の利いたタイトルに至るまでよく考えられている。台湾の奨励賞2作品は表現力に秀で、素材の可能性を巧みに引き出した。グッドマテリアル賞受賞作は曲げ輪の素材・技術の今日的活用である。審査員賞の力強くスケール感ある酒盃台と酒器のコンビネーションは会場でも存在感を放つであろう。
応募作品の課題を挙げるならば、呑む際に緊張感を強いる作品が散見されたが、その匙加減を検討しつつ次作に挑んで頂きたい。

松井 利夫 / MATSUI Toshio  (陶芸家/滋賀県立陶芸の森 館長)

様々な素材を活かし、多彩な表現手法で創作された応募作品には圧倒されました。例えば、鶴首の長い先まで酒が溢れてくるのを待ちわびるかのような注器「最初の季節」、海月のように気持ちよく酔っ払って漂う「ゆらぐ」ガラスの作品など、機知に富んだ酒器たちが並び、楽しい審査会場となっていました。伊丹の風土や自然に根ざした酒造りが生み出した多様な文化を考えると、酒器は単なる「道具」ではなく、酒と共に文化を楽しむための生活の一部であることがよくわかります。そんなことを考えながら作品の海を歩いていると、突然、海の底から杯が現れ、その下から真っ赤な舌がにゅっと伸びてくるような衝撃を受けました。それが「ハナコ酒器セット」との出会いでした。その佇まいはまるでパフォーマンスアートのようで、この酒器がもし動き始めたら、舌の先で酒杯を掲げ、へそで茶を沸かし、あっかんべーをして「伊丹国際クラフト展」の歴史に衝撃的な1ページを刻むことでしょう。どんなに酒器について真剣に知識を深め、理解し、創作に臨んだとしても、一方で、へそで茶を沸かすようなユーモアや遊び心がなければ、心躍る作品は生まれません。お酒に二面性があるように、作品にも毒と薬の両方の要素が必要です。皆さん、もう一度、自分の目でよく見て考えてみてください。毒や薬、さらには毒にも薬にもならない偽薬さえも見分けることができるようになると思います。

山野 宏 / YAMANO Hiroshi  (ガラス作家/大阪芸術大学 工芸学科 学科長)

「酒器・酒盃台」日本酒を呑むのに必要な器であり、飲み手の視覚、触覚に語りかけ味覚を高揚させ、酒の席をより盛り上げるポテンシャルを持った作品選出を念頭に審査会に臨んだ。
大賞「ハナコ酒器セット」、視覚的に遊びを全面に出しながら、楽しく、気持ちよく使って欲しいと言う作家のきめ細かい思いやりが見える非常にユニークな作品であった。準大賞「ゆらぐ」、透明なガラス素材を存分に生かした水の塊を思わせる酒盃台の造形とそこに調和した大きさの違う2個の酒器、暑い夏にキーンと冷えた冷酒を呑みたい物だ。伊丹賞「最初の季節」、不思議なそれぞれの台にしっくりと収まった徳利とぐい呑み、鳥の首を掴むような徳利で酒を酌み交わす3人の特別な儀式だ。優秀賞「マッ酒ルーム」、徳利とお猪口を重ねてマッシュルーム、丁度良いサイズ、重さ、口当たり、掴み心地、見た目も楽しく、良い加減に酔えそうだ。奨励賞(老松賞)「The Charcoal」、素材が銅なのに質感、見た目が確かに墨だ、一緒に酒を酌み交わす奴を驚かせ楽しませてやろう、ついでに自分もその様子を眺め楽しめるかな。奨励賞(光陽社賞)「合/Combine」、木と石の酒盃台にピッタリ収まった木とガラスの杯、組み合わせを楽しみながら酒が進みそうだ。グッドマテリアル賞「酒器セット」、曲げわっぱの杉素材を生かした素晴らしい職人魂、容器兼、徳利の器にぐい呑みをしまって気の合う2人、自然の中で呑もう。審査員賞「タネカラ」、たまには石のような酒盃台にぐい呑み置いて豪快に呑みたい物だ。

四代 田辺 竹雲斎 / TANABE CHIKUUNSAI Ⅳ (竹工芸家/アーティスト)

酒を飲む時、視覚、触覚、嗅覚、味覚、聴覚の五感を使う。器の音や手触り、見た目の美しさ、楽しさが酒の味わいを一層引き立てる。酒を飲みながら器を愛でることは、単なる飲酒を超えた自然や人、文化とのつながりがある。
そんな酒器・酒盃台の展覧会は、清酒発祥の地・伊丹ならではのクラフト展といえる。審査会場には素材を生かしながら創意工夫がされた多くの作品が並び、審査するのが難しく、またとても楽しいひと時だった。大賞を受賞した「ハナコ酒器セット」はアート的な面白さがありながら技術が高く、作者のアイディアとユーモアを感じさせる。また伊丹賞を受賞した「最初の季節」は酒の儀式的な文化の優雅さがありながら、華やかでシャープな造形力が魅力的である。受賞する作品にはそれぞれにアイディアと造形力があり、そして確かな技術力がある。お酒をのむことは人と人をつなぐ役割でもある。器を愛でて、四季や文化を感じる。今回受賞された作品は人のつながりを楽しく広げてくれる作品だと、期待と確信をもっている。

趙 丹綺 / CHAO Tan-Chi (金工作家/国立台湾芸術大学 教授(台湾))

2024年伊丹国際クラフト展「酒器・酒盃台」の審査員を務められたことを大変光栄に思います。審査日終日を通して、応募者の工芸に対する情熱を強く感じました。技術的な突破口を目指しただけでなく、デザインには斬新な要素が盛り込まれており、深く印象に残りました。
酒器は単に日本酒を入れる器というだけでなく、日本文化の一部でもあります。日本酒を注ぐ器をはじめ、酒器をのせる台や、日本酒をさらに豊かに味わうための装飾品のすべてが審査対象となります。
応募作品では伝統的な技法と現代的なデザインが融合されています。形や素材の選択、細部の処理など、酒器に対する理解と創造性が顕著にみて取れます。審査の過程では作品の職人技を評価するだけでなく、酒文化をどのように解釈し革新的に表現しているかにおいても特別な注意を払いました。
高い実用性に加えて、フォルムとコンセプトのバランスが絶妙で実に見事な作品もありました。受賞作8点は、陶磁器、ガラス、金属、木など素材もさまざまです。日本の伝統工芸的なものから、彫刻的な発想の器まで、その表現は多岐にわたります。その中で、特に印象に残った作品が2点あります。例えば、グッドマテリアル賞を受賞した作品は、伝統的な技法を用いながらも、現代的なデザインコンセプトを取り入れた携帯用の酒器です。職人技が緻密で洗練されており、実用的であると同時に、日本酒を楽しみながら深く根ざした精巧な職人技を鑑賞できる芸術作品となっています。伊丹賞を受賞したもうひとつの作品「最初の季節」は、純白の磁器製です。伝統的な形から離れ、彫刻のようなフォルムの徳利とお猪口です。色、大きさ、そしてデザインは神聖さと儀式的な感覚を呼び起こし、徳利、お猪口、そしてそれぞれの台が興味深く完璧なコンビネーションを形成しています。この公募展の応募作品を通して、異なる時代とスタイルの融合と衝突を目の当たりにしました。
最後に、参加者の皆さんの献身的な作品に感謝するとともに、このような展示と交流の場を提供してくださった主催者の方々にお礼を申し上げます。当公募展は、職人の技量を試すことにとどまらず、日本酒文化の奥深い探求の場ともなりました。伝統と革新の両輪で酒器の芸術が輝き続けるよう、今後も優れた作品に出会えることを期待しています。

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