市立伊丹ミュージアム

ITAMI INTERNATIONAL CRAFT EXHIBITION

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2023伊丹国際クラフト展「ジュエリー」2023 ITAMI International Jewellery Exhibition

2023年11月18日(土)~12月24日(日)Sat. November 18 – Sun. December 24, 2023

1998年に始まった伊丹国際クラフト展は、今回で24回目を迎えました。今年のテーマは「ジュエリー」です。海外19ヵ国128名を含む、302名より総数965点のご応募があり、厳正な審査の結果、97名が入選、そのうち8名が入賞されました。本展では97名の入選作品をご紹介させていただきます。
人の心や身体に深く関わるジュエリーは、古来、多様な文化や風土、社会の中で育まれてきました。世界各国から集まった様々な背景を持つ作品たちからは、その表現の奥深さを改めて感じております。身近にある素材を使ったもの、新技術を用いたもの、社会問題を提起したもの。97名の作品を通して世界の今を肌で感じることができるでしょう。人に向けられた真摯な眼差しから生まれた「ジュエリー」。素晴らしい作品の数々を、ぜひご覧ください。

展覧会情報
会期 2023年11月18日(土)~12月24日(日) 10:00~18:00
(入館は17:30まで)
休館日 月曜休館  入場無料
会場 市立伊丹ミュージアム 展示室6
表彰式 2023年11月18日(土) 13:00~
会場:市立伊丹ミュージアム 1階 講座室
主催 市立伊丹ミュージアム[伊丹ミュージアム運営共同事業体/伊丹市]
協賛 株式会社光陽社、佐竹ガラス株式会社、株式会社田中直染料店
後援 近畿経済産業局、兵庫県、一般社団法人総合デザイナー協会 (DAS) 、公益社団法人日本ジュエリーデザイナー協会、株式会社ベイ・コミュニケーションズ、伊丹まち未来株式会社
審査員

岩田広己 (ジュエリー・金工作家/東京藝術大学 教授)
小清水漸(彫刻家/京都市立芸術大学 名誉教授)
佐藤ミチヒロ (ジュエリー作家/大阪芸術大学 工芸学科金属コース 客員教授)
関昭郎 (東京都写真美術館 事業企画課 事業第一係長 学芸員)
外舘和子 (工芸評論家/多摩美術大学 教授)
ひびのこづえ (コスチューム・アーティスト)
MIN Bogki (ソウル大学校 美術学部 教授 (韓国))

大賞 / Grand Prix

neo
吉岡 優希 / YOSHIOKA Yuki (JAPAN)

準大賞 / 2nd Best Overall Award

Bone in heart
LEE Hyung Chan(KOREA)

伊丹賞 / Itami Award

The Poetic Lines of Architecture: Blue and White
雷 家純 / LOI Ka-Son (MACAO)

奨励賞(光陽社賞) / Award for Promising Talent (Koyosha Award)

Smelting Mountains
陳 政罡 / CHEN Jheng-Gang(TAIWAN)

奨励賞(光陽社賞) / Award for Promising Talent (Koyosha Award)

ANHELITUS
CONSALVO SANCES Roberta(ITALY)

グッドマテリアル賞(佐竹ガラス賞) / Best Material Award (Satake Glass Award)

Two face
毛 威琦 / MAO Ikki (CHINA)

審査員賞 / Judge’s Choice

大人 缶バッチ
荻原 真琴 / OGIHARA Makoto (JAPAN)

きらめき賞(田中直染料店賞) / Twinkle Award (TANAKANAO SENRYOTEN Award)

The Long Journey of Growth
吳 周娟 / OH Juyean (KOREA)



-審査講評-

岩田広己 / IWATA Hiroki (ジュエリー・金工作家/東京藝術大学教授)

ジュエリーに限らず作品は、自然に、また無意識のうちに、環境やある時代、社会状況に影響を受け、“つくり手”という人のフィルターを通し、過ごしてきた独自の証と哲学的要素が “カタチ”となっているだろう。作者にとってジュエリーという表現で何を伝えたいのか、どの様な想いを経て、素材、技術、形式を用いて生まれ出たのか、特に世界各国から集う本公募展はポストパンデミックや世界情勢、それぞれの倫理観が有する今日において、興味深く審査に臨ませて頂いた。
市立伊丹ミュージアムリニューアル後に初めてとなった今回も多くの作者の思考に触れる事ができたが、作品の傾向として既視感を拭えない作品も多々あり、その中でいかに独自性のある表現と制作意図において作者の伝えたい思いを確かめる作業となった。
大賞となった作品はミニマムな形体の金属を通して、物質の変化の現象や、その意外性を人の心への反応を通じて、既成概念からの解放を謳い、様々な事象へ比喩的に作用する作品となっている。
また、他の入賞・入選作品においても、様々な体験や心の拠り所が大切であることを問うものや、生命への尊厳、自由を奪われ不安に思う心情から生まれた作品など、アプローチの方法は様々であった。人の“心”を動かす芸術表現が豊かな社会へと変える活動として、期待の持てる分野であることを再認識した。今後のジュエリー分野の躍進を楽しみにしたい。


小清水漸 / KOSHIMIZU Susumu (彫刻家/京都市立芸術大学 名誉教授)

伊丹ミュージアムの改築をまって、4年振りの伊丹国際クラフト展ジュエリーの部の開催です。今回の応募作品はどの様であるか、ワクワク感と多少の危惧を抱いて審査会場に臨みました。ひと渡り見て直ぐに危惧は無くなり、粒ぞろいのジュエリーの数々に気分は高揚しました。4年の間に作者の皆さんは技倆を一段と磨かれたのであろうか、全体に高い技術による作品が揃っているなと感じました。
一方たくさんの良くできた作品を見ているうちに、天邪鬼の私の中に少し不満と疑問が生まれてきました。
破綻を恐れぬ冒険心に溢れた作品が少ないのではないか?
これも4年という時間のなせることなのでしょうか?
この4年の間には新型コロナの世界的パンデミックがあり、様々な活動の制約と、生活の逼塞を味わいました。
その上起きては為らぬはずの無体な戦争が始まっています。多分世界に突きつけられたこれらの難題が、一人一人の制作に影響を与えないはずはありません。作品制作に際して広く大きな視野を持ち冒険することより、自らの手の内で解決できる次元を、より深く追い求めることになっていったのではないでしょうか?
しかし敢えて苦言を申せば、高い技倆と丹念な制作の先に目指す世界はどの様にあるべきなのか、忘れず追い求めて欲しいと思うのです。

佐藤ミチヒロ / SATO Michihiro (ジュエリー作家/大阪芸術大学 工芸学科金属コース 客員教授)

立体構築のための構造に着目する造形方法は、構造と形状が密接に結び合う建築のそれにも相通ずるものがあるように思われます。大賞作品では、この方法がジュエリーという身体性を伴う小さな造形表現に向かうアプローチとして用いられ、そしてそれが理知的で冒険心にあふれる造形物として結実しています。アルミという素材を用いながらも手で触れた時に立ち現れる意外な感じ、もしくは身につけることによって生まれる作品それ自体の微小な動きや予期せぬからだの振舞いは、それらが作品の表現における重要な要素となり得ることを改めて気付かせてくれます。
他の入賞作品については、素材の性質や素材同士の関係性を吟味しながら、それらをまるで絵具であるかのように用いて制作意図を丁寧に紡ぎ出している作品に好感を抱きました。また準大賞の作品では、心(の柱)は私たちを支える骨であると見立てる独創的な視点が印象的でした。

関昭郎 / SEKI Akio  (東京都写真美術館 事業企画課 事業第一係長 学芸員)

今回の出品作には、海洋の廃棄物であるブイや乾板を思わせるガラスなど、素材の持つ言語を活かした作品、また、生物の行動による造形やコミュニケーションを生むアクションを促す作品などもあり、コンテンポラリー・ジュエリーの表現への理解と成熟が感じられました。
そのなかでも、コンセプトと素材、技術がマッチした作品が説得力という点では、目を惹きました。吉岡優希さんの作品は、手に取ると思いがけず柔軟で、さらに軽量です。硬質で、重量感のある視覚的印象と手に取ったときのギャップは強い印象を残しました。独自性のある新しい表現は、大賞に相応しいものでした。
伊丹賞のLOI Ka-Sonさんの作品は、街の記憶が断片的に思い浮かんでくるようで、詩的なアプローチか印象的でした。特にポルトガル植民地時代アズレージョを取り上げることで、歴史性という厚みが加わっていました。
コンテンポラリー・ジュエリーは、素材価値から脱却することが、一つの大きな転換でしたが、その意味では伝統的な価値を持つ「工藝」を取り入れることにも一種の危うさがあります。その意味では、審査員賞の荻原真琴さんの技巧を軽快に見せる挑戦は心地よく感じられました。

外舘和子 / TODATE Kazuko  (工芸評論家/多摩美術大学 教授)

コロナ明けの本展覧会は、国内は勿論アジア、ヨーロッパ、アメリカからの海外出品が約3分の一を占め、国際展に相応しい内容となった。サイズの上では全体的にやや小振りの傾向を示したものの、環境や社会に対する問題意識が様々なジュエリーを通して感じられ、我々が国境を越えて同時代に生きている事を感じさせた。大賞はハニカム構造をアルミニウムに活用した「動くジュエリー」。触れる楽しみが倍加する作品である。準大賞は人骨をテーマにシャープで滑らかな木のフォルムと金属を巧みに組み合わせ、これもジュエリーの「触れる」要素をさりげなく生かしている。伊丹賞は金属の線の美しさを主体にした建築パース風の立体造形で、七宝がアクセントである。こうしたジェンダーレスなジュエリーも現代の傾向である。
今回の審査では「引用」手法の話題をはじめ例年以上に議論が白熱した。審査基準は、身体との関わり・造形性・技術的完成度。アイデアだけではジュエリーとしては未完である。作者は今一度そのジュエリーを人が身につけたいと切実に思うか否かも意識して欲しい。

ひびのこづえ / HIBINO Kodue  (コスチューム・アーティスト)

私は審査にあたり、発想が豊かなジュエリーを期待しました。
例えば身体全体を埋めるジュエリーがあっても面白いとか、付けていると身体が変化するとか!?クラフト作品としての手業はもちろん重要ですが、発想とアイデアのインパクトに着目しました。
neo」は、シンプルな直方体の金属なのに、手に持つと、生き物の様に驚くほど滑らかに動きます。このジュエリーを身につけ、出会う人の驚く顔さえ想像しました。
Bone in heart」は、木と金属で身体の内部構造を表現しています。身につけるジュエリーが、実は体の内部の造形なのはちょっとシュールですが、あえて骨をリアルに表現していないのが、とてもクールにお洒落だと思いました。
「Two face」のユーモアも好きでした。身の回りのものがジュエリーになりえる様、それが日常で生物のように動きそう。
審査に参加し、ジュエリーは生活を豊かに変えるアートピースであり、ジュエリーを身につける側が、それをもっと愉しまなくてはと思いました。

閔復基 / MIN Bogki  (ソウル大学校 美術学部 教授(韓国))

応募作品を拝見することはジュエリー芸術の現代の様相を垣間見る貴重な体験となりました。
審査中、強い印象を残した作品はSPILLMANN Philippの「Shells」、長屋さくらの「Piece of memory series / damaged memory」、そして今回は入選とはなりませんでしたが川羽田匠登の「Dialogue_Prototype」の3作品でした。石油会社のロゴを冠したスウェーデンの海洋廃棄物を利用した「Shells」は、環境問題を皮肉たっぷりに浮き彫りにし、特に印象に残っています。「Dialogue_Prototype」は家のドアベルをモチーフとし、身につける者と他者との出会いや交流を強調しており興味をそそられました。「Piece of memory series / damaged memory」は熟練された職人技によって媒体の中の媒体としてのジュエリーの独自性を見事に伝えています。しかし、作品のオリジナリティーにも重点をおく本公募展では以前の応募作品との類似性についても慎重な討議がおこなわれました。
新たな芸術作品に挑戦することはしばしば勇気を必要とする果敢な挑戦です。この点で吉岡優希の「Neo」は特筆に値します。当作品は、そのタイトルにふさわしく金属の薄膜構造を利用した新しい柔軟な金属物質を提案し、素材特性における先駆的な可能性を示唆しています。LEE Hyung Chanの「Bone in Heart」は骨のしなやかさ、靭帯や同様の構造の間の緊張と空間を繊細に捉えています。
入賞された8名の方々、本当におめでとうございます。そして、貴重な作品を披露してくださった応募者のみなさまにも感謝を申し上げます。

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